はじめに
「トイドローン」の存在を知ったのはたまたま手に取った雑誌の小さな特集でした。
ドローンと言えば飛ばすためには免許が必要で価格も高価、というイメージでしたが、トイドローンは家の中でも飛ばせるほど小型で、価格も1万円前後からと手頃。機種によってはカメラも搭載されていて、空撮が楽しめるとか。
私は旅行が大好きですが、写真も(下手くそではあるが)大好きです。
私に限らず、旅好きの人で写真が好きな人はとても多いように思います。
旅先で出会った美しい光景を記憶だけでなく記録に残したいという思いは多くの旅人に共通するのでしょう。
もし、ドローンで空撮ができたら、旅の写真がもっと楽しく、ダイナミックなものになるのでは・・・そう思ったらもう買わずにはいられません。年末年始はモロッコとスペインに行く予定です。これは自分へのクリスマスプレゼントです!
選んだのは、価格の割りに高画質と評判のTelloという機種。機体のほか、予備のバッテリー、送信機、専用の収納ケースが付いて2万円弱でした。
おもちゃとしては高価ですが、カメラとしては格安です。約80gと軽く、航空法の規制対象外のため飛行申請も必要ありません。
そう、日本では。
この時はまだ、大きさにかかわらずドローンの飛行が禁止されていたり、持ち込みすら禁止されている国があることすら知らなかったのです・・・。
モロッコの入国審査
岡山から羽田、羽田からロンドン、ロンドンからカサブランカと飛行機を3回乗り継ぎ、モロッコに到着したのは現地時間で夜の10時。
モロッコでの入国手続きは聞いていた以上に大変でした。
入国審査の列はかなり長い行列で、特に複数人の審査にはかなり時間がかかっている様子。そこで、夫と二手に分かれ、私が次男と三男、夫が長男と一緒に列に並んだのだが、これがまず大きな失敗でした。
私はあっという間に入国審査が終わり、人の流れに乗ってエスカレーターの手前まで来たのだが、同じくらいのタイミングで審査を受けたはずの夫がいつになっても来ません。
先にエスカレーターを降りたのかと思い、探してみるも、やっぱりいません。
到着したばかりで電話も通じるようになっていないし不安ばかり募ります。
20分以上待ったでしょうか。ようやく夫が現れました。
なぜそんなに時間がかかったのかと聞くと、何をしにきたのか、どこに泊まる予定なのかなど詳細に聞かれたそう。
夫は旅の詳細を把握していないので適当に答えて怪しまれたのでしょう。
ひょっとしたら小さな子供を連れた中年男性ということで人さらいにでも間違われたのかもしれません。
何はともあれ無事に入国審査を済ませ、最後に手荷物の検査を受けてドライバーさんとの待ち合わせ場所に向かう、はずでした。
ドローン、X線検査で見つかる
X線の機械を私のトランクが通過した途端、職員がざわつき始めました。
「ドローン?」「ドローンだ!」
「何!?ドローンだって??」
その場でトランクを開け、ドローンを出すように言われます。
私は、素直にトランクを開け、ケースに入ったドローンを取り出しました。
ケースの中身を確認し「やっぱりドローンだ」「でも、ちっこいな、まるでおもちゃだ」「どれどれ、本当だ」などと言いながら職員が集まってきました。
その後、一人の職員が私からドローンを取り上げ、ちょっと待つように、と言い残し何処かに向かいました。
しばらくして戻ってくると、「別室で話を聞くからついてくるように」とのこと。
不安げな顔でこちらをみる子供たちを夫に任せ、職員について「別室」へと向かいます。
まるでドラマか映画の一場面のようです。3つ並んだ椅子の1つに座るよう促され、カウンター越しの職員から説明を受けます。
「モロッコはドローンの持ち込みは禁止されているんだよ。ここで預からせてもらうからね。この書類に必要事項記入して。出国の際には返してあげるから、書類の写しは無くさないでね」
おそらく私は「無知なだけで善良なツーリスト」として認識されていたはずで、職員の対応も優しく、厳しい取り調べのようなものではありませんでした。
ただ、困ったことに出国はマラケシュ空港、カサブランカには戻らないのです。
帰りの航空券を見せ、そのことを説明するも、私の拙い英語はうまく伝わりません。
「大丈夫、よくわからないけどちゃんと返してあげるから、早くこの書類書いてよ」
ってな感じでした。
その間にも、ガチのヤバそうな人が何人か「別室」に連れてこられます。
隣の椅子に座ったやたらとガタイのいいお兄さんは、リュックサックの中から大量の手錠が見つかり、没収されていました。
また別の人はよくわからないことを叫んでいました。見るからに危ない感じでした。
指定された書類に必要事項を記入し終え、小さなドローンがほかの押収品とともに別室のロッカーにしまわれるのを見届けてから別室を後にしました。
教訓
自宅での試運転だけで、外の空を一度も飛ぶことなく私の手元を離れた小さなドローン。その後どうなったかは誰も知りません。
後から調べてみると、モロッコがドローンを厳しく規制していることはよく知られたことでした。
ドローンによる空撮を楽しむ人にとっては、渡航先の国のドローン規制がどのようになっているかをあらかじめ調べておくのはごく当たり前のことなのです。
トイドローンの登場で私のように、ドローンについて何も知らない人でも気軽に手にとれるようになった一方で、今回のようなトラブルも起こりやすくなっているのかもしれません。
中には、空港でのチェックが漏れて、モロッコにドローンを持ち込めてしまった人もいるようですが、モロッコ国内で飛ばしてしまうと、すぐに警察に見つかり勾留されてしまうそうです。
知らずに飛ばして逮捕となったらそれこそ大変なことになっていました。
そう考えれば、空港でちゃんと没収してもらえたのはよかったのかもしれません。
(今にして思えば、本体以外の付属品は返して貰えばよかったな!)
日本では当たり前に所持できるものが国によっては違法になるものがあるので、渡航先の法律はよく確認しておきましょう。